三石先生はNPO法人京都・奈良EU協会の理事でもあり、8月7日(金)
クリニックサンルイで≪一人の医者から見たフランス医療事情≫のテーマで
講演をしていただきます。
Q)本日はお忙しいところ、お話をお聞かせ頂き、ありがとうございます。
まずこの素晴らしい場所についてお聞かせ頂けますでしょうか?
どのような病気を対象に、どのような治療をやっておられるのでしょうか?
三石瑤子院長)
いろんな種類のがん及び肉腫を対象としております。その人のがんにだけあらわれている
がん抗原をターゲットとする樹状細胞をオーダーメイドで作成し、定期的にワクチン接種する
方法でがんの再発予防やがんの縮小のための治療をおこなっています。2007年9月の開院以来
すでに約340人の方が治療を受けておられます。詳しいことはホームページにも載せていますので
ごらんください。
http://www.cslk.jp/
Q)ところでクリニックの名前はどこからきたのですか?
三石院長)
クリニックの名前の由来は手術をしないで難病を治療した聖ルイ(ルイ9世Louis IX、1214年〜1270年)
に依っており、また私の在仏時代に骨髄移植のセンターであったパリのサンルイ病院
Hôpital Saint-Louisでの懐かしい思い出にも根ざしています。
Q)先生は長く海外で研究、研修、勤務をされていたと聞きますが、
どちらでどのくらい、どのようなことをなさっていたのでしょうか?
三石院長)
フランスのストラスブールにあるルイ・パストゥール大学の附属病院で腎臓内科学教室にて
3年間勤務しました。そのときに腎臓移植学に非常に興味を持ち、その当時、分子生物学の手法を
取り入れた分子免疫学が盛んになってきており、臨床から研究生活のほうに比重を移して移植免疫学を
約5年間研究しました。その後、縁があって、アメリカのカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)
の外科学講座に移籍し、移植抗原の研究を12年間しました。その中で、移植を拒絶する免疫のすさまじい
力に驚き、この力をがんの排除に用いることが出来るのではないかと考えるようになりました。
Q)それらの国々で感じた、医療に対する基本姿勢の日本との違いはあります?
三石院長)
まず、日本で学んだ西洋医学が非常に表面的なものであることを痛感しました。
日本の医者がカルテの表記に用いる医学用語は実は西洋人にとっては日常的な言葉であることに
驚きました。また、日本人にとって手術というのは大変な出来事であるのですが、フランス人に
とってはもっとも日常的な治療であることにいつも驚いておりました。腎移植の例をとっても
日本ではなかなか普及しないのですが、フランス人にとっては悪くなったものは取り換えるという
ごく自然な発想から発達した治療のようです。また、治療法を自分で選ぶということもごく日常的に
おこなわれていることです。だから、いわゆるインフォームドコンセントは当然の手続きであり、
それに基づいて自分で治療法を決定するのが通例のことでした。
Q)フランスの医療研究、あるいは医療現場で日本が参考にするべき点はなんでしょうか?
三石院長)
たとえば、主治医制についてですが、日本の場合は医者は聖職の一種で、たとえ当直でなくても
自分の患者さんの容体が変化した場合には当然のように病院に呼ばれます。フランスの場合は
引き継ぎが十分におこなわれ、当直医がすべての責任を持って治療をします。こういう形で
医者も普通の生活が保障されているのです。これには悪い点もあるんですが、学ぶ点も
多いと思います。たとえば、日本では考えられないことですが、フランスでは医者も全員が1ヶ月の
ヴァカンスをとるのです。すべてを忘れて、休暇を楽しむことによって、ものごとを深く考える
ことが出来るし、新しい発想も得られます。
Q)これからも先生自身、あるいはこの医療の場でフランスをはじめとする海外との
医療の面での交流を推し進めてゆきたいと考えておられますか?
三石院長)
それは絶対に必要なことだと思います。
Q)海外で生活をされるときに経験された喜びやご苦労をお聞かせ下さい。
三石院長)
一番大きかったことは家族生活を取り戻したことですね!
子供を育てながら100%仕事ができることは驚きだったですね。苦労したのは
やはり言葉の問題ですね。苦しみを訴える患者さんとの会話がスムーズに運ばないのは
大変な苦痛でした。また当直の夜、寝ぼけた頭でナースのフランス語を電話で受けた時の
どうしようもない思い出があります。
Q)最後に医療の分野でのグローバル化が進むか、あるいは格差が広がっていくか、
また日本のそして世界の医療のために何をするべきと考えておられますか?
三石院長)
がん治療に関していうとグローバル化はすでに進んでいます。世界共通の
医療成績に基づき、世界共通の標準治療が行われようとしております。ただし、各国の
厚生省のかかわり方とか経済状態によって遅い早いはありますけど。わたしたちが
取り組んでいる樹状細胞療法は実は世界でトップを走っています。海外ではまだ
大学の治験にとどまっているので、海外の友人から相談を受けたりしている状態です。
もっとも重要なのは、予防医学です。もっともっと予防医学の研究が進み、医療保険で
保障されるべきだと思います。