『勝手に逃げろ/人生』はジャン=リュック・ゴダールの〈商業〉映画への復帰となる(もちろん、商業の概念は相対的なものである。とくにゴダールに関して語るときには…)。ジガ・ヴェルトフ集団に属し、ビデオ作品による左翼急進主義の闘争的映画を撮っていた10年に及ぶ年月の後であった(テレビのための数本の製作を除けば、ほとんどがアンダーグラウンドの映画であった)。『勝手に逃げろ/人生』の配役は豪華である。まずはジャック・デュトロン、イザベル・ユペール、ナタリー・バイなどであり、音楽はガブリエル・ヤレドが担当した。
『勝手に逃げろ/人生』はゴダールのフィルモグラフィの中で1つの頂点をなし、最も成功した作品の1つであって、同時にこの作家の美的変遷の中での決定的な段階である。実際、この映画でゴダールは、その後、決して離れることのない新しいトーンを発見した。よりはっきりと詩的で、直接的な政治性が少ないトーンである。自然に結びついていることの多い映像の美は(ゴダールは自然を人間のように撮影する)、『勝手に逃げろ/人生』に静かで瞑想的で哲学的な調子を与えている。この感興は、ゴダールがのちに、次第に探究していくことになる。つまり、始まりを目撃するだけにますます興味深いのである。映像詩は次第に力を増すが(例えば、ナタリー・バイの顔のクロース・アップはとても印象的である)、この作品では、子供時代と並んでゴダールにとって大切なテーマである、男性・女性の難しい関係と、正面から描くのではなく、想起される売春もまた力を持っている(ユペール演ずる登場人物と彼女の妹が台所で交わす露骨な議論は、『ウィーク・エンド』〈1967〉の始めにミレイユ・ダルクが打ち明ける、同様にあけすけな告白を想起させる)。
『勝手に逃げろ/人生』は常に進化し、問いかける作品のさきがけである。その点で、芸術的にだけでなく、歴史的にも重要な作品である。
ピエール・シルヴェストリ
(訳:梅原万友美)